「ベトナム語のđược/bịの３つの用法とその使い分け」

T Asuka

《この論文はAsukaさんが卒業研究で提出したものです。折角の貴重な論文を皆さんに見て頂きたく了承を得て掲載に当たりました。Asukaさんありがとうございました。》

１）「受動態」を作る助動詞 được、bị

　まず、‘「受動態」を作る助動詞’の用法である。ベトナム語では、同じく＜…される＞の意でも、主語である主体にとってそれが「恩恵」であればđược、「被害」であればbịとはっきり区別され、これら二つの助動詞を互いに入れ換えることは絶対にできない。

　そして、それらの行為を主語である主体に及ぼした相手を明示したいときにはその「相手」は必ずそれぞれの助動詞のすぐ後ろに動詞とはさまれる形で置かなければならない。以下は、aが能動態で書かれた文、bがそれに対応する受動態の文である。

（1） a.Thầy giáo ken tôi. 先生が私をほめました
b.Tôi được thầy giáo khen. 私は（先生に）ほめられました

（2） a.Tôi bị mắng thầy giáo. 先生が私を叱りました
b. Tôi bị thầy giáo mắng. 私は（先生に）叱られました

　構造については、元来は漢字の「得」＜受け取る＞、「被」＜被る＞という動詞からの借用であることを考慮し、以下のように、それぞれの助動詞の後ろに命題（節）が続いて、その節の表す内容を主語である主体が「恩恵」として或いは「被害」として「受け取る」という形と分析される。

（3） Tôi được thầy giáo khen.
S1 V１

２）「恩恵」を表す助動詞 được と「被害」を表す助動詞bị

　次に、「受動態」ではないのだが、他の動詞や形容詞の前に置かれて、主語である主体にとって「恩恵」や「被害」の感情を表出する用法である。

（4） Tôi được nghỉ. 私は休ませてもらいました

（5） Tôi bi thua.　　　　　　　　　　　　　　　私は負けました。

　そして、được に限っては、そのような「恩恵」を主体にもたらした相手を明示することができ、その場合、助動詞 được と動詞の間にそれを置き、動詞の前に「使役」のchoを置かなければならない。

（6） Tôi được thầy giáo cho nghỉ 私は先生に休ませてもらいました。

また、bị に限っては、特に身体の具合を言うとき、形容詞の後にその身体の部位の名を直接つけることが許される。

（7） Tôi bị đau răng. 私は歯が痛い

（8） Anh ấy bị mù mắt. 　　　　 彼は目が見えません　

‘「受動態」を作る助動詞 được、bị’と‘「恩恵」を表す助動詞 được と「被害」を表す助動詞 bị’の用法の違いについては以下のように説明される。

（9） Tôi được khen. 　　　　　　私はほめられました

（10） Tôi được thầy giáo khen.　　　 私は先生にほめられました

（11） Tôi được nhgỉ. 　　　　　　 私は休ませてもらいました

（12） Tôi được thầy giáo cho nghỉ　. 私は先生に休ませてもらいました

　（９）に含まれる動詞は「他動詞」であり、khen＜ほめる＞の対象はTôi＜私＞であって、＜私＞が＜ほめられる＞のであるから、これは完全な受身の文である。（９）でđượcを省略すると、意味が全く変わってしまう。

　それに対し、（１１）に含まれる動詞は「自動詞」で、nghØ＜休む＞には対象がなく、t«i＜私＞は「主体」となっている。（１１）の文でđượcを省略しても、別に意味は変わらないことから、「受動態」文ではない。つまり、動詞の表す行為を「恩恵」として受け取っているだけにすぎず、đượcがなくても意味が変わらず、ただ「恩恵」の気持ちが外へ出てこないだけの違いである。あるいは、「許可」と考え、それを許してくれた主体をさらに表出したい時には2つ目の文のように、助動詞đượcと動詞の間にそれを置き、動詞の前に「使役」のchoを置くと考えることもできるとしている。

３）đượcとbịが名詞の前に直接置かれる用法

　最後に、được と bị が名詞の前に直接置かれる用法について取り上げる。この用法は、上の２つの用法と違い、「助動詞」的用法とは言えない用法として挙げている。

　

（13） Mẹ tôi được tin vui. 　　　　　私の母は嬉しい知らせを受け取りました

（14） Mẹ tôi bị mưa. . 　　　　　　 私の母は雨に遭いました

例文の表記に対する注意

以下の例文では、Aは対応する能動文、　　は原文で使われているもの、- は非文法的ではないが意味関係が変わってしまうものを示す。

０．１．３つの分類

　được/bị 文の３つの分類とは、được/bị�T本来の動詞としての用法、được/bị�U受動文を作る用法、được/bị�V受影性を表す用法である。

được/bị�Tとđược/bị�U,�Vが決定的に違うのは、được/bị以下がđược/bị�Tは名詞のみなのに対し、được/bị�U,�Vは動詞を含むことである。được/bị�Uとđược/bị�Vの違いは、前者では動作主の意味役割を担う要素が存在するのに対して、後者にはそれに相当するものが想定されていないことである。

được/bị�U

（15） Mẹ tôi ｛a.*được/ b.bị/ c.*φ｝　nó （奴） giết.
b.私の母は（奴に）殺されました。
A．Nó giết mẹ tôi.　　奴が私の母を殺しました

được/bị�V

（16） Anh ấy ｛a.*được/ b.bị/ c.φ｝ chết.
b.彼は死んでしまった。　c.彼は死にました。

được/bị�Uとđược/bị�Vの違いは、được/bị が省略できるかどうかとも関わっている。前者は省略できず、後者においては省略可能である。

　各分類に属する主な文の構造をまとめると次の表のようになる。

表 1

分類	được/bịの機能	構造
được/bị�T	動詞	NP1(動作主)＋được/bị＋NP2(対象)
được/bị�U	受動文を作る	VP＝二項動詞 NP2(対象)＋được/bị＋NP1(動作主)＋VP(他動詞) VP＝三項動詞 NP（受領者）　＋được/bị＋NP2（動作主）＋VP3（他動詞）＋NP（対象） 使役＋VP NP1（対象）＋được/bị＋NP2（動作主）＋cho（使役）＋VP(自動詞)/ VP（他動詞）＋NP3（対象） 持ち主の受身 NP1（所有者）（＋được/bị＋NP2（動作主）＋VP（他動詞）＋NP3（対象）
được/bị�V	受影性を表す	NP1（対象）＋được/bị＋VP(自動詞) NP1(動作主)＋được/bị＋VP（他動詞）＋NP2（対象） NP1（所有者）＋được/bị＋VP（自/他動詞）＋NP2（対象）

　ただし、後に明らかになるが、được/bị�Uに属する文には受影性を表す目的で用いられると考えられるものがあり、được/bị�Uでのđược/bịの機能を受動文を作ると書くことには問題がある。そして、その点において、được/bị�Uとđược/bị�Vが連続的であることを考慮すべきである。

　以下、各分類ごとに例文を挙げる。

０．１．１．được/bị�T．本来の動詞としての用法

　được/bị�Tの特徴は、được/bị以下が名詞句だけで構成されていることであることである。được/bịは「（物を）得る、被る」という意味を持ち、được/bịを省略することはできない。

（17） Sáng nay chị tôi ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝thư.

a.今朝私の姉は手紙を受け取りました。

（18） Tôi ｛a. *được/ b. bị/ c.*φ｝tai nan giao thông.

b.私は交通事故に遭いました

０．１．２．được/bị�U．受動文を作る用法

　この用法は、‘「受動態」を作る助動詞 được、bị ’と対応する。được/bị�Uは動作を受動的に表す機能がある。được/bị 以下には必ず動詞句が存在し、その動詞句を用いて、対応する能動文が作れる。được/bịは省略不可能である。ここでは、構文ごとに能動文も併せて例文を提示する。

（表記；được/bị文←A.元となる能動文。）

· NP1（対象）＋được/bị＋NP2（動作主）＋VP（自/他動詞）　←A.　 NP2（動作主）＋VP（自/他動詞）＋NP1（対象）

能動文の他動詞の目的語が主語になった形である。

（19） Mộｔ phụ nữ （中略） đã ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝ lính cứu hỏa cứu thoát.
a.女性は消防士に救出された。
A. Lính cứu hỏa đã cứu thóat một phụ nữ. 　消防士は女性を救出した。

（20） ngiều khách hàng tới thử váy ｛a.*được/ b.bị/ c.*φ｝ bọ chét cắn.
b.スカートを試着しに来たたくさんのお客さんが、しらみに噛まれた。
A. Bọ chét cắn nhiều khách hàng..　しらみはたくさんの客を噛んだ。

· NP1(受領者)＋được/bị＋NP2（動作主）＋VP(他動詞)＋NP3（対象）
←A.　 NP2（動作主）＋VP（他動詞）＋NP1(受領者)＋NP3(対象) / NP2（動作主）＋VP(他動詞)＋NP3(対象)＋cho＋NP1（受領者）

·

次は３項動詞の間接目的語（受領者）を主語にした形である。

（21） Tôi ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝ bạn tôi cho ba quyển sách.
a.私は友達から３冊、本をもらいました。
A.Bạn tôi cho tôi ba quyển sách.　友達が私に３冊、本をくれました。

· NP1（対象）＋được/bị＋NP2(動作主)＋cho（使役）＋VP（自動詞） / VP(他動詞)＋NP3(対象)　
←A.　 NP2(動作主)＋cho（使役）＋NP1（対象）＋VP（自動詞）/ VP(他動詞)＋NP3(対象)

続いては、使役を表すchoが動詞の前についた例である。

（22） Sáng chúng ta ｛a.được/ b.bị/ c.*φ｝ thầy giáo cho nghỉ.
a.今朝、私たちは先生に休ませてもらいました。
b.今朝、私たちは先生に休ませられた。
A. Thầy giáo cho tôi nghỉ. .先生は私を休ませた。
（bでは cho よりも bắt が好まれる）。

· NP1(所有者)＋được/bị＋NP2（動作主）＋VP(他動詞)＋NP3(対象) ／NP3(対象)　cua NP1（所有者）＋được/bị＋NP2(動作主)

· NP2（動作主）＋VP(他動詞) ←A.　 NP2（動作主）＋VP(他動詞)＋NP3(対象)＋cua＋NP1（所有者）

この例は他動詞の目的語の所有者が主語となった例である。

（23） Anh Hùng ｛a.*được/ b.bị/ c.*φ｝ kẻ trộm lấy mất chiếc cặp.
b.フンさんは泥棒にかばんを盗られてしまった。（動詞+ mất：してしまった）
／Chiếc cặp của anh Hùng ｛a.*được/ b.bị/ c.*φ｝ kẻ trộm lấy mất.
b.フンさんのかばんが泥棒に盗られてしまった。
A.　 Kẻ trộm lấy mất chiếc cặp của anh Hùng.

泥棒がフンさんのかばんを盗った。

０．１．３．được/bị�V．受影性を表す用法

được/bị�Vの役割は受影性を表出することにある。được/bị以下には必ず動詞句が存在するが、được/bị�Uのように対応する能動文が作れるわけではない。このグループの最大の特徴は基本的にはđược/bịを省略しても意味構造が変わらずに文が成立することである。

· NP1 (対象)＋được/bị＋VP（自動詞）

まずはđược/bịが自動詞文につく例から見ていく。

（24） Tôi ｛a.được/ b.bị/ c.φ｝ nghỉ.
a.私は休めてよかった／休ませてもらった。
b.私は休ませられた。
c.私は休んだ。

（25） Xe đạp ｛a.*được/ b.bị/ c.φ｝ hỏng rồi..
b.自転車が壊れた／壊れてしまった／壊された。
c.自転車が壊れた。

· NP1（動作主）＋được/bị＋VP(他動詞)＋NP2（対象）

次は、他動詞文にđược/bị　がついた形である。

（26） Tôi ｛a.được/ b.bị/ c.φ｝ ăn chè.
a.私はチェーを食べさせてもらった／チェーを食べることを許可された。
b.私はチェーを食べさせられた。
c.私はチェーを食べた。

· NP1（所有者）＋được/bị＋VP(自/他動詞)＋NP2(対象) ／ NP2(対象)＋của＋NP1（所有者）＋được/bị＋VP(自/他動詞)

この構造の特徴は、主語であるNP_１がNP_２の所有者となっている点である。

（27） Nam ｛a.*được/ b.bị/ c.φ｝ mất mẹ..
b.ナムさんはお母さんが亡くなって困っています／ナムさんはお母さんを失って困っています。
c.ナムさんはお母さんが亡くなりました。／ナムさんはお母さんを失いました。

（28） Tôi ｛a.*được/ b.bị/ c.φ｝ đau răng.
b.c.私は歯が痛い

そして、このような文は以下のような直接構造に書き換えが可能である。

（29） Mẹ của Nam ｛a.*được/ b..bị/ c.φ｝ mất.　
b.ナムさんのお母さんが亡くなった。　c.ナムさんのお母さんが亡くなった。

（30） Răng của tôi ｛a.*được/ b.bị/ c.φ｝ đau.
b.私の歯が痛くなってしまった。　c.私の歯が痛い。

１．được/bị�T．本来の動詞としての用法

１．１．được/bịの決定

このグループは、được/bị以下の名詞で、ほぼđượcかbịかが決まると言ってよい。まずは、実際にđượcと用いられている例を挙げる。

（31） Cậu Bài dạy học trong làng ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝ dăm bảy đòng bạc lương.
a.バイは村で教えていて、五、六ドンほどの給料を得ていた。

（32） Tôi chắc rồi sau thế nao cũng ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝ trọng thưởng.

a.僕は、きっと、後日、必ず沢山の賞金がもらえると思った

　次にbịと用いられている例である。

（33） Tôi ｛a. *được/ b. bị/ c.*φ｝ tạii nan giao thông.
b.私は交通事故に遭いました

（34） Cửa ｛a. *được/ b. bị/ c.*φ｝ bụi.
b.ドアに埃がついています。

　以上の例からは、得られて嬉しいもののときはđượcを用い、得られると嫌な気持ちになるときは bị を用いているように感じられる。

しかし、実際は được/bị の決定が受け取る物に対する主語の「恩恵」か「被害」かという気持ちに影響されないことが、以下の例からわかる。

（35） Mẹ tôi ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝ tin vui.

a.私の母は嬉しい知らせを受け取りました。

（36） Mẹ tôi ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝ tin buồn.
a.私の母は悲しい知らせを受け取りました。

（37） Tôi ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝ ba quyển sách.
a.私は友達から３冊、本を得た。

（38） Tôi ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝ ba quyển sách nội dung xấu.
b.私は３冊もおもしろくない本を得た。

（39） Chúng tôi ｛a. *được/ b. bị/ c.*φ｝ mưa.
a.* 私たちは（恵みの）雨を得ました。
b.私たちは雨に遭いました。

「悲しい知らせ」「おもしろくない本」は受け取っても、あまりうれしいものではなさそうだ。それなのに、bị　と結びつくことはできず、được と結びつく。もともとはbị と共起している「雨」も「恵みの雨」と考えても、やはり　được　と結びつくことはできない。

このことから、その受け取るものによって、được か bị かが固定してしまっていることがわかる。bị と結びつく語はかなり限定されていて、明らかに「被害」となる事態を被るときである。それに対して、được は、その受け取る「物」の良し悪しや受け手の評価に関わらず一般的に「物を受け取る」というときに広く使われている。　

２．được/bị�U．受動文を作る用法

được/bị�Uが受動的な表し方をすることである。この受動文を作る機能とベトナム語特有の được/bị という「恩恵」「被害」で使い分けることがどのように関係しているかをここでは観察したい。

２．１．được/bịの決定

まずは、基本的には được/bị がどのように使い分けられているかを実際の例文で観察する。

２．１．１．動詞による影響を受けている例

　まずは、動詞によって được か bị かが決まる例を見ていく。

（40） Tôi ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝ thầy giao khen.
a.私は先生にほめられました。

（41） Tôi ｛a.*được/ b.bị/ c.*φ｝ thầy giao mắng.
b.私は先生に叱られました

一般的に、「ほめられる」ことは「恩恵」だから được で、「叱られる」ことは「被害」と考えられるので bị、と使い分ける。たとえ、「私は嫌いな先生にほめられてうんざりした」とか「先生が私の将来のことを思ってくださっていることがわかっていたので私は先生に叱られてうれしかった」という文脈があったとしても非文法的と判断される。

このような高い「恩恵性」や「被害性」を備えた動詞を用いた例では、主語（または話者）の感じ方よりも、語彙の性質がđược か bị かを決める要素として優先されていることがわかる。

　他にも、「恩恵性」が高いと考えられ được と用いられる傾向にある動詞には次のようなものがある。

giúp đỡ（助ける） cứu thóat（救出する） thương yêu（愛する） tôn（尊敬する） chiều（甘やかす） đáp ứng（満たす） thưởng（褒美を与える） mời（招待する） xoa bóp（マッサージをする） yêu（愛する）　など。

一方、「被害性」が高いと考えられ bị と用いられる傾向にある動詞には次のようなものがある。

làm đê mê（しびれる） làm ohiền luy（煩わす） thiêu đốt（焦がす） bẫy（罠にかける） đè nén（抑え付ける） phê bìng（批判する） chê（注意する） nhai（噛み砕く） chế giuễu（からかう） khinh bỉ（軽蔑する） giam（監禁する） đòn（鞭打つ） tra（拷問する） bỏ（捨てる） giết（殺す） đánh（叩く） chạm nọc(痛いところに触れる) cắn（咬む） phù phép（魔法にかける） chui（潜り込む） phạt（罰する） phá hủy（破棄する） ghét（嫌う）

２．１．２．動詞を修飾する要素による影響を受けている例

　これまでは、được/b ị以下の主要部となる動詞によって、được か bị かが決定する例を挙げた。ここでは、修飾要素の評価が được か bị かの決定に影響している例を挙げる。

　（４２）のように普通「理解される」というとき、được と用いられることが多い。しかし、（４３）のように「誤って」という修飾要素が付けば、bị が好まれる。

（42） Câu nói của tôi ｛a. được/ b.*bị/ c.*φ｝ các bạn hiểu.

a.私の発言は友達に理解された。

（43） Câu nói của tôi ｛a.*được/ b.bị/ c.*φ｝　các bạn hiêu nhầm.

b.私の発言は友達に誤解された。

このように、修飾要素の評価が được か bị かを決めることもある。

　少し複雑な例になるが、次の例も修飾要素の評価が、được か bị かの決定に関わっていると言える。

（44） Tất cả những đọan dây ｛a.*được/ b.bị/ c.*φ｝cắt đều ｛a.*được/ b.bị/ c.*φ｝ giấu rất khéo léo.

b./a.b.これらの切られたひもはすべて非常に巧みに隠されていた。

文脈 :　「空中ショーで、演技をしていた男が墜落する事故が起こった。なぜなら、正規のパラシュートも、予備のパラシュートも開かなかったからだ。後で、警察は、犯人がパラシュート部門に熟知していた人であると断定した。なぜなら、これらの切られたひもはすべて非常に巧みに隠されていたからだ。」

　まず、「切られた」という表現から見ていく。普通、「物」が切られたという場合、được を用いるのが一般的である。例えば次のようにである。

（45） Chiếc bánh ｛a.*được/ b.bị/ c.*φ｝ cắt làm 2 phần.

a.そのケーキは２つに切られた。

そして、「ひもが切られた」というこの文も、この文だけで独立した表現なら、được を用いて表すのが普通である。しかし、事故について書かれているという文脈から考えて、ここでは、「被害」と結びつきやすい bị を用いなければならない。

次に、「隠された」という表現を見る。「切られたひも」とするときは、必ず bị を用いなければならなかった。このことから考えると、「隠された」と表すときも bị を用いなければならないように思えるが、原文では được を用いている。実は、このことは「とても巧みに」という修飾要素があるゆえに成り立っているのである。

　その理由として、「とても巧みに」がついている場合は được を用いても良いのであるが、修飾要素が何もつかなかったり、「あわてて」というマイナス評価の修飾要素がつくと được を用いることができなくなる。（４４）と以下の２つの例を比べると明らかだ。

（46） Tát cả những đọan dây bị cắt đều ｛a.??được/ b.bị｝ giấu.
これらの切られたひもはすべて隠されていた。

（47） Tát cả những đọan dây bị cắt đều ｛a.??được/ b.bị｝ giấu vội vàng.
これらの切られたひもはすべてあわてて（vội vàng）隠された。

また、主語の「残念な」気持ちが表れる表現に‘動詞+ mất：してしまう’がある。この表現が使われている場合は　bị　と共起する可能性が高い。[1]

（48） Tôi ｛a.*được/ b.?bị/ c.*φ｝ mẹ nói mất lời giải của câu đố.
b.私は母にクイズの答えを言われてしまった。（動詞+ mất：してしまった）

（49） Chiếc cặp của anh Hùng ｛a.*được/ b.bị/ c.*φ｝ kẻ trộm lấy mất.
b.フンさんのかばんが泥棒に盗られてしまった。

２．１．３．文脈による影響を受けている例

ここでは、文の表す内容が、被害的と考えられるので、bị を使っている例を挙げる。

例えば、次のような例である。普通注射されるときは được を使うが、（５２）のように怖がっている子どもに注射するときは bị を使う。

（50） Bệnh nhân đã ｛a.được/ b.?bị/ c.*φ｝ tiêm thuốc.
a.b.病人は薬を注射された。

（51） Đứa bé đó rất sợ ｛a.*được/ b.bị/ c.*φ｝ tiêm.
b.その子は注射されることをとてもこわがっている。

次の例も普通は（５２）のように được を使うのだが、（５３）のように主語にとって被害と考えられる場合には、bị が使われる。

（52） Bệnh nhân trước khi phẩu thuật đều ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝ gây mê.
a.手術をする前の病人は皆、麻酔をかけられる。

（53） Tôi ｛a.*được/ b.bị/ c.*φ｝ gây mê trước khi ｛a.*được/ b.bị/ c.*φ｝ nhóm người lạ đưa đi.

b.私は奇妙な人の集団に連れて行かれる前に麻酔をかけられた。

　次のように何かを得る場合も、「得る」という行為自体は「恩恵」に思えるが、得られるものが悪いものなら bị が使われる。

（54） Ông ta ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝ trả lương.
a.彼は賃金を支払われた。

（55） Ông ta ｛a. *được/ b. bị/ c.*φ｝ trả giấy bạc giả. 　
b.彼は偽札を支払われた。

（56） Tôi ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝ bạn tôi cho ba quyển sách.
a.私は友達から３冊、本をもらいました。

（57） Tôi ｛a. *được/ b. bị/ c.*φ｝ bạn tôi xho ba quyển sách nội dung xấu.
b.私は友達から３冊もおもしろくない本をもらった。

ここで注目すべきことは、được/bị�Tが品質の良し悪し関係なく được を使っていたのに対し、được/bị�U は bị も使えるということである。

２．１．４．「恩恵」「被害」に中立的な例

　今まで述べてきた例は、được/bị 以下の動詞や修飾要素によって、「恩恵」的か「被害」的かの判断ができた。しかし、この二者択一では収まらない例もある。ここでは、そのような「被害」でもないが「恩恵」があるかどうかもわからない例を取り扱う。

　

（58） Cảnh sát ｛a.được/ b.?bị/ c.*φ｝ gọi tới nhà hàng.

a.警察はレストランに呼ばれた
b.警察はレストランに呼ばれてしまった

（59） Phiên tỏa xét xử White sẽ ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝ mở vào tháng 9.

a.ホワイトを審判する法廷は９月に開始されるだろう。

（60） Tên gọi ban đầu của hãng Coca Cola tại Trung Quốc ｛a.được/ b.bị/ c.*φ｝ phiêm âm thành “Kekoukela”.
a.b.中国でコカコーラ社の初めの呼称は、“Kekoukela”（＝「ロウのおたまじゃくしの尾を噛む」、あるいは「雌馬がロウを食べる」）"と音訳された。

（61） Khẩu hiệu “Come Alive With the Pepsi’s Generation”｛a.được/ b.bị/ c.*φ｝ chuyển nghĩa sang tiếng Hoa là “Pepsi đêm tổ tiên bạn từ dưới mồ trở lại.

a.b.スローガン"Come Alive With the Pepsi's Generation"は中国語で「ペプシは墓の下からあなたの先祖を連れて行く」という意味に変えられた。

いずれの例も「恩恵」か「被害」かが判断しにくい。強いて言うなら、（６０）（６１）は悪い意味である。それなのに、được が用いられている。

このことから、明らかに「恩恵」とわからなくとも、được が用いられると言える。つまり、「恩恵」「被害」に中立的な文では、được を使えばよいという結論が導ける。

２．１．５．主語の有生性による影響を受けている例

　主語の「有生性」によって được を使うか bị を使うかが異なる例が観察される。例えば、「切る」という動詞を受動的に表す場合、主語が「物」の場合は được を使うが、「人」や「動物」の場合は bị を使う傾向にある。

（62） Quả cam ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝ cắt thành 2 phần.
a.みかんは２つに切られた。

（63） Khi ｛a.*được/ b.bị/ c.*φ｝ cắt bỏ hết chân, bọ chúet mất khả năng nghe.

b.足をすべて切り捨てられたら、しらみは張力を失う。
⇒Bọ chét ｛a.*được/ b.bị/ c.*φ｝ cắt hết chân.
b.しらみは足をすべて切られた。

（64） Mẹ tôi ｛a.*được/ b.bị/ c.*φ｝ cắt tay.
b.私の母は手を切られた。

同様に、「消化された」という場合も、「物」が主語なら được を使い、「動物」が主語なら bị を使う方が好まれる。

（65） Thức ăn ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝ tiêu hóa ở dạ dày con bọ.
a.虫のおなかの中で食べ物が消化された。

（66） Con bọ đã ｛a.?được/ b.bị/ c.*φ｝ tiêu hóa ở dạ dày con chim đó.
a.b.あの鳥のお腹でその虫が消化された。

このように、同じ行為を受ける場合でも、主語が「物」の場合は được を使い、「人」や「動物」の場合は bị を使う傾向にある。この原因は主語の有生性による。「人」が主語であれば、受ける行為を「恩恵」とも「被害」とも感じることができるが、「物」が主語であれば、感じることができない。それゆえに、「物」主語の場合は「恩恵」「被害」に中立的と捉えられ、đượcを使うと考えられる。

以上、主語の有生性により、bị と được が区別される例をあげた。

２．１．６．được/bịの決定

ここで、明らかになったことは、「恩恵」を表す要素（動詞、修飾要素、文脈）があれば được、「被害」を表す要素があれば bị、そして、「恩恵」とも「被害」ともとれない場合は「恩恵」的な場合と同様に được を使うということである。そのことをまとめた図が図１である。

また同じ行為を表している場合でも主語の有生性の違いで、被害と考えられたり、中立と考えられたりする場合が観察された。

図 1

●　一般的 được/bị の使い分け
bị　（mắng　叱る）	được　（gọi 呼ぶ）		được　（khen　褒めるなど）
←　被害		０		恩恵　→

２．２．受動文の種類と受影性の表出

２．２．１．受動的な表し方をする理由

次に、được/bị�Uが受動的な表し方をする理由について考える。

được/bị�Uが受動的な表し方をする理由には２つの側面がある。１つは、どうしても受動的に表さなければならないという消極的理由から、もう一つは、受影性を表出したいという積極的理由からである。

どうしても受動的に表さなければならない場合の一つに、動作主が消失している場合が考えられる。このような場合には、受影性がどうのこうのよりも、能動文にできないのだから受動文にして表すよりしかたない。つまり、この場合は、「恩恵」か「被害」かということがあまり問題とならないと考えられる。

もし、どうしても受動的に表さなければならない理由がないのに、受動文になっている場合には主語や話者の「恩恵」や「被害」の気持ちが表れている可能性が高い。つまり、受影性を表出したいという積極的理由によって、受動態が使われているといえる。

動作主の有無が受影性の表出に関係があると考えられるので、以下に、動作主が消失している例と消失していない例を挙げ、受影性が表出しているか観察する。

２．２．２．動作主消失文

動作主が消失している理由としては、動作主が不明、不特定、重要でないときが考えられる。このような場合には、別の関与者を主語にして受動的に表すしかない。

受影性が表出されていない例

以下の例のように等位節内で用いられている例では、動作主は消失している。

（67） Thắc ắc, ông gọi điện tới vị giám khảo để hỏi và ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝ giải thích.
a.疑問に思って、彼は試験管に質問するために電話すると、（次のように）説明された。

次の例は動作主が不明であったり、不特定である場合である。

（68） Có lẽ ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝tôn làm ông ỷ.
a.（一匹の巨大な雄豚は、）おそらく豚様として尊ばれているだろう

（69） Những ai <làm tôi oa đêm> đều ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝ trả lương trội.

a.夜間働いた人は誰でも追加の賃金が支払われる。

以上の例は、受動文にするしかない。この場合、受ける行為に対して、主語や話者がどんなふうに思っているかはあまり問題になっていない。được/bị による受影性はあまり際立たない。

受影性が表出されている例

動作主がないにも関わらず、受影性が表れているように見える例もある。

（70） Không biết khóa cửa ｛a.?được/ b.bị/ c.*φ｝ mở từ lúc nào.
a.b.いつドアの鍵が開けられたかわからない

（71） Khóa cửa ｛a.được/ b.?bị/ c.*φ｝ mở.
a.b.ドアの鍵が開けられた。

「鍵を開けた」動作主が不明なので、受動文を使っていると考えることができるが、普通鍵を開けるという時は được を使うことから、受動文の機能に加え、受影性が表れているようにも見える。次の例も、同様に動作主は出てきていないが、「被害性」が表れているように見える。

（72） Chỗ ẩn của bố tôi ｛a.*được/ b.bị/ c.*φ｝ báo cho địch.
b.私の父の隠れている所は敵に告げられた。

この例は「私」が視点となって語られていて、「私」にとって「被害」的な事態なので bị を使っている。

そこで考えたいのはどのような時に、受影性が表れているように見えるかということである。動作主がない例で受影性を表出するには、受動文を作るために được/bị を使っている場合との差をはっきりさせなければならない。そのはっきりさせる方法は、通常その文で使われる được/bị のうちの逆の方を使うことだ。

しかし、もともと「恩恵性」や「被害性」を備えた動詞は được/bị の共起に制限があるので、通常時と逆な方を選んでも不自然な文になってしまう。だから、được/bị の対立だけで気持ちを表出するには「恩恵」「被害」に中立的な動詞であるときでなければならないといえる。

「恩恵」「被害」に中立的な場合は普通đượcを使うことも既に述べた。主語の「恩恵」的な気持ちはđượcで表すので、これでは差がつかない。そうなると、中立的な行為にbịをつけることだけが「被害性」を表すことができる。

図 2

●　動作主消失文の受影性
気持ちの影響
*được	bị	*bị
↓	↓	↓
bị	được	được
←　被害	０	恩恵　→
được、bịは受影性を表すとき、được、bị は普通の受動文を作るとき

例えば、次の例のように普通は được を用いるところを bị を使うと、私がレストランに行くことを嫌がっているように取れる。

（73） Tôi ｛a.được/ b.bị/ c.*φ｝ gọi tới nhà hàng.
a.私はレストランに呼ばれた。
b.私はレストランに呼ばれてしまった。

次の例も、病院で手術をしたり、麻酔をかけたりする人が誰なのか自明なので、動作主が出てきていない。しかし、この bị と được の使い分けには受影性が関係していると感じずにはいられない。

（74） Một phụ nữ đã ｛a.*được/ bị/ c.*φ｝ mổ mà không ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝ gây mê tại bệnh viện. 　
女性は病院で手術はされたが麻酔がかけられなかった。

（75） Một phụ nữ đã được gây mê và （được） mổ tại bệnh viện.
女性は病院で麻酔をかけられて、手術された。

普通は（１１２）のように表現されるところを、（１１１）のように接続関係を逆にした上で bị を用いて「（特別な方法で）手術された」ということを暗示させている。そして、bị との対比の効果で、được の「恩恵性」が際立っている印象を受ける。受影性をうまく表現の中に取り入れた例だといえる。

以上からわかることは、動作主がないとき、普通、受影性は際立たない。しかし、普通は được を用いて表すところを bịを用いると「被害性」が際立ったり、được のみでは「恩恵性」が表出しないところを bị と対比させるように用いることで、お互いの受影性を際立たせることがあるということである。

２．２．３．動作主出現文

文の続き具合などの影響により動作主が出てくる例文すべてに、受影性が表出されるとは限らないが、動作主が消失していない例文では、受影性が表出されている可能性が高いといえる。その理由は、動作主がない例とは違い、中立的なときには能動文で表すことができるからである。そのため、được と bị が使われているときには、何らかの「恩恵性」「被害性」をわざわざ表したいときになる。

だから、以下の例文で、được の時は「恩恵」的で、bị の時は「被害」的と感じられるのはそのためである。

（76） Tôi ｛a.được/ b.bị/ c.*φ｝ anh ta chọn làm người yêu.
a.私は彼に好きな人に選ばれた。
b.（冗談で）私は彼に好きな人に選ばれてしまった。
A. Anh ta chọn tôi làm người yêu. 　彼は私を好きな人に選んだ。

次の例で、được がやや不自然と感じられる理由も中立的なときに能動文が用いられることが影響している。つまり、（７７A）のように能動態で表すのが中立的なときなので、（７７a）はうれしいと感じているとき、（７７b）は嫌なときということになる。しかし、職員室に呼ばれてうれしいと思うことはあまりないので、được はやや不自然と感じられる。

（77） Tôi ｛a.?được/ b.bị/ c.*φ｝ thầy sư gọi đến văn phòng.
a.私は先生に職員室に呼ばれた。
b.私は先生に職員室に呼ばれてしまった。
A. Thầy sư gọi tôi đến văn phòng. 　先生は私を職員室に呼んだ。

また、được としか結びつかない「ほめる」という動詞も、中立的なときには能動態が使われることから、（７８a）のように được を使って表すと主語が「恩恵」的な（うれしい）こととして受け取っていることがわかる。それに加えて、bị としか結びつかない「叱る」という動詞も能動文のときに中立的、bị を使うと「被害」的なこととして受け取っているという印象を受ける。

（78） Tôi ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝ thầy giáo khen.
a.私は先生にほめられました。
b.*私は先生にほめられてしまった（ほめられたがうれしくなかった）。
A. Thầy giáo khen tôi.　先生が私をほめました。

（79） Tôi ｛a.*được/ b.bị/ c.*φ｝ thầy giáo mắng.
a.*私は先生に叱られました（叱られてうれしかった）。
b.私は先生に叱られました。
A. Thầy giáo mắng tôi. 　先生が私を叱りました。

以上で挙げられた例は、主語の気持ちの影響が考えられるが、次の例は話者の気持ちが影響している。次の「破毀する」という動詞は、もともとこの動詞自体に「被害性」が備わっており、通常 bị と共起する。この文も、能動文が中立に事実だけを伝えていることと対比されると、話者の「被害」的な気持ちが表れた文と考えられる。

（80） Nơi ＜tôi ra đời＞ đã ｛a.*được/ b.bị/ c.*φ｝ bom đạn phá hủy.

b.私が生まれた場所は爆弾と弾丸によって破壊された。
A.Bom đạn đã phá hủy nơi tôi ra đời.
爆弾と弾丸が私の生まれた場所を破壊した。

ちなみに、話者の気持ちが表れるのは、「物」が主語のときである。有生性が高い主語のときには、話者の気持ちよりも主語の気持ちが優先されるからである。そして、「物」が主語の場合には、普通は được を使うが、文に現れていない視点となる人の影響で　bị　を使っている場合がある。（４．１．５．参照）

次の例も、「物」が主語で、主語にとって「恩恵」であるように読むことができる。

（81） Cửa ｛a.được/ b.bị/ c.*φ｝ Nam mở.
a.ドアはナムさんに開けてもらえました／開けられました。
b.ドアがナムさんに開けられてしまった。
A. Nam mở cửa. ナムさんがゴアを開けた。

以上、動作主の出現している例について受影性が感じられるかを見てきた。

２．２．４．受影性の表出と　được/bị

動作主の消失した文が受影性を表すことが少なく、受影性が表れるとしても、例が限られていること、動作主が消失していない例では、được　や　bị　を使うだけで、受影性を表すことができるということを整理すると以下のような図が与えられる。

図 3

●　動作主の消失文≒普通の受動文
*được	bị	*bị
↓	↓	↓
bị	được	được
←　被害	０	恩恵　→

図 4

●　動作主の出現文≒受影受動文
bị	能動文	được
←　被害	０	恩恵　→
được、bịは受影性を表すとき、được、bịは普通の受動文を作るとき

２．３．まとめ

以上、được　か　bị　かの決定する要素についてと、受動文を作る機能と受影性の関わり方について見てきた。

ここでの成果は、まず　được/bị�U　において、được/bị　は受身文を作るという機能と受影性の表出という２つの側面を持っていることを示したことである。そして、主語に行為をもたらす動作主の有無を手がかりに、普通の受動文と受影受動文に分けて、được　と　bị　の性質が違うことを示したことである（図３、図４）。これにより、được　と　bị　が受動文を作る機能としての役割を果たすためのものか受影性を表わすためのものかの区別が明確になった。

また、được/bị　の決定に際して、được　が中立の意味も表すということがわかった。これにより、「恩恵」「被害」のどちらにも分類しかねていた例も分類できるようになった。

３．được/bị�V．受影性を表す用法

được/bị�U　が受動文を作る機能と受影性の表出という２つの側面を持っていることは既に触れた。この受影性の表出の側面だけが拡張すると　được/bị�V　になると考えることができる。この用法で　được/bị　をつける理由は、受影性を表出したいという積極的理由からである。

３．１．được/bị　の表出する意味

được/bị　がつかない文を基本として、「恩恵性」を表出したい場合には　được　、「被害性」を表出したい場合には　bịを使えばよい。

（82） Tôi ｛a.được/ b.bị/ c.φ｝ đi xem phim.
a.私は映画を見に行かせてもらった。
b.私は映画を見に行かせられた。
c.私は映画を見に行った。

中立的に事物を表している（８２c）を基本として、（８２a）（８２b）にはそれぞれ、主語の「うれしい気持ち」「嫌がる気持ち」が表れている。

これから見ていく例では、được/bị　をつけることによって、「恩恵」や「被害」以上の意味が付加される。

được/bị�Vでは、được/bị　によって付加することができる意味を把握した上で、話者の表したい意味に似合うようにđược　か　bị 　かを選択すればよいと考えられる。

まずは、được/bị　がそれぞれ使われている文と　được/bị　がつかない形を比べ、どのような意味が創出されているかを観察する。

３．１．１．đượcの表出する意味

まずは　được　と結びついている例から見ていきたい。この用法での　được　は、「恩恵」を表す助動詞　được　と紹介されている通り、được　の後に続く行為が主語にとって「恩恵」「うれしいこと」であることを示す働きがあると言える。

先ほど挙げた　được　のついた（８２a）にも、その「恩恵性」が表れていた。また、（８２a）の日本語訳を、「私は映画を見に行くのがうれしい」ではなく、「私は映画を見に行かせてもらいました」としていることから、その行為を主語にしてくれる（許可する）人の存在を暗示していると考えることもできる。これから挙げる例のほとんどがこのように「うれしい」という気持ちだけでなく、他の意味も付け加えられているようだ。以下、được　が表すさまざまな意味を、例文で観察する。

次の例文も主語の「うれしい気持ち」が表れているようだ。

（83） Hôm nay là ngày anh ｛a.được/ b.*bị/ c.?φ｝ ra tù đấy.
a.今日は私が牢屋から出られる日だ。
c. ?今日は私が牢屋から出る日だ。

（84） Mai chủ nhật chúng em ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝ nghỉ.
a.明日は日曜で私たち休みだし。

しかし、この例では　được　を省略してしまうと不自然と感じられる。もし　được　が主語の「うれしい気持ち」を表しているだけなら、不自然に感じられることはないはずだ。

（８３c）が不自然に感じられるのは、「牢獄が自分の意志で出られるところ」ではないからだと考えられる。（８３c）のようにđược　をつけない表現にすると「自分の意志で牢獄を出る」という意味になってしまう。「牢獄を出る」という行為は、「牢獄を出す」という行為を主語にしてくれる（許可する）人の存在があって、初めて成立する。（８２）と同様　được　がその行為を主語にしてくれる（許可する）人の存在を暗示していると考えられる。

一方、（８４c）が不自然に感じられるのは、「主語が意図的に休むのではなく、日曜で休みなのが当然」なのに、được　がないと「主語の意志で休む」という意味になってしまうからである。この例には、その行為をわざわざ主語にしてくれる（許可する）人の存在は必要ない。（８３）と（８４）に共通しているのは、主語の意志による行為ではないということである。このことから、được が、主語の意図性が低いことを表す働きを持つということができる。その主語の意図性の低さが結果として、その行為を主語にしてくれる（許可する）人がいるという予想を招くと考えられる。

次の例も、được が主語の「うれしい気持ち」を表すと同時に、主語の意図していたことではないということを表している。

（85） Sướng quá ! Lại ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝ ăn chè kia hát chứ, có ngọt không bu?

có ngọt　甘いですか？ bu　母
a.−まあ、うれしい！豆粥を食べられるなんて、甘いの、母さん？

これは「母さんが豆粥を食べさせてくれるなんて」という意味に捉えることもできる。

　次の例は行為の「恩恵性」はあまり感じられないが、行為が主語の意図していてなかった偶然のことだというのがわかる。

（86） Tâm đã ｛a.được/ b.*bị/ c.φ｝ Thấy một vài cô gái tỉnh về quê.
a.c.タムは都会の娘たちが二、三人田舎に帰ってくるのを見かけた。

次のように được は、否定文と共に用いられているのをよく見かける。この場合、được を用いない文は「主語の意志で〜しない／でない」という意味になり、được を用いた文は「主語の意志に反して〜しない／でない」という意味で否定を強める効果がある。

（87） Nàng không ｛a.được/ b.*bị/ c.φ｝ về nhà mẹ luôn nữa.
a.彼女は母の家に帰ることはもうできなかった。
c.彼女は母の家にもう帰らなかった。

（88） Luật cấm sinh viên không ｛a.được/ b.*bị/ c.φ｝ hút thuốc lá.

a.c.法律は学生が煙草を吸うことを禁止している。

（89） Tôi không ｛a.được/ b.*bị/ c.?φ｝ dễ chịu.
a.c.私は快適ではありません

否定文同様、疑問文でもよく　được　が用いられている。

（90） Ai trong số các vị đã ｛a.được/ b.*bị/ c.φ｝ sờ mó vào Chúa ?
a.c.あなた方の中で誰か主にさわることができますか？

（91） Anh ｛a.được/ b.*bị/ c.φ｝ khỏe không ?
a.c.お元気ですか

この場合、話者が　được　以下の行為に「肯定的な感情」を持っている。ただし、話者に肯定的な返事を期待しているわけではなさそうだ。

　同じく文意を強調する要素が文の中に含まれているときも　được　が出現している。

（92） Quyết ｛a.được/ b.*bị/ c.?φ｝ về cạnh giường bệnh của cha.
a.c.（彼は、）父の病床のそばに帰って！

（93） Dằng nào con cũng ｛a.được/ b.*bị/ c.?φ｝ ăn.
a.どちらにしてもお前が食べることはできる

（94） Sướng quá ! Lại ｛a.được/ b.*bị/ c.*φ｝ ăn chè kia hát chứ, có ngọt không bu ?

a.まあ、うれしい！豆粥を食べられるなんて、甘いの、母さん？

（９２）（９３）はそれぞれ「必ず」「いずれにしても」という副詞句が文意を強める働きをし、（９４）は語気詞がついていることで文意が強まっている。

được 以下の動詞に được が「獲得する」という本来の動詞の意味を付け加える働きをしている例もある。

（95） （母国語とは） Là ngôn ngữ mà anh ｛a.được/ b.*bị/ c.φ｝ học từ nhỏ và dùng nó suốt đời.

a.c.母国語はあなたが幼いときに習得し、一生使っていく言語です

（96） Anh ấy mới ｛a.được/ b.*bị/ c.?φ｝ có hai hào chỉ.
a.c.彼は、やっと、二ハオしか手に入らなかった！（ハオ：ベトナムの貨幣単位。１ドンの１／１０）　

Anh ấy có hai hào chỉ. 　彼は二ハオだけ持っている。

（９５）は　được　がないときと比べて「自分の物にする」という意味が付け加えられている。（９６c）がやや不自然と感じられるのは、‘míi（やっと）’という瞬間的な動作の完了を表す副詞‘cã(持つ)’という状態性の高い動詞が結びつきにくいからと考えられる。その（９６c）に　được　を付け加えると、「得る」という「瞬間的な動作」の意味が出てくるので、（９５a）のような自然な文になる。

（97） Xa một tí nhưng ｛a.được/ b.*bị/ c.φ｝ rẻ.
a.c.−ちょっと遠いけど安くしてもらえるから。

（９７）は「安い」という意味に　được　をつけること「安く得られる」に「恩恵」の意味に加え、「安くしてもらえる」という動作になったと考えられる。

次の例は、được　が主語の「嬉しさ」と「なる」という動作性を付け加える役割を果たしている。

（98） Bac sĩ báo tin ông đã ｛a.được/ b.*bị/ c.??φ｝ làm cha của một cậu bé.
a.医師が彼が赤ちゃんのお父さんになったことを伝えた。
c.医師が彼が赤ちゃんのお父さんだったことを伝えた。

３．１．２．bịの表出する意味

次に　bị　が用いられている例を見ていく。この　bị　の用法は「被害」を表す助動詞bịと紹介されている。「被害」と呼ばれている通り、bị　以下には主語にとって悪い内容が続いている。

（99） Một tên trộm chui ôang khói ｛a.*được/ b.bị/ c.φ｝măc kẹt.
b.c.煙突にもぐり込んだ泥棒は動きが取れなくなった

（100） Han （中略） đã cực may mắn vì chỉ ｛a.*được/ b.bị/ c.φ｝ tổn thương nhẹ ở vùng mặt.
b.c.顔の周りに軽く傷をしただけだったので、ハンは極めて幸運だった。

được　でもそうだったが、bị　の表す内容は広がりを見せる。まず　bị　は、話者が主語に共感して、主語の残念さ・後悔の気持ちなど否定的な感情を持っていることを表すことができる。上の２つに例もそうであるし、次の例もそうである。

（101） Tôi ｛a.*được/ b.bị/ c.φ｝ thua.
b. 私は負けてしまった。
c. 私は負けました。

（102） Tôi ｛a.*được/ b.bị/ c.φ｝ đau đầu.
b.私は頭が痛くなってしまった。
c.私は頭が痛い。

bị　のつかない基本形の場合は、主語がどう思っているかは関係なく、事態のみを表すが、bị　がつくと、（１０１）では主語の悔しさ、（１０２）では苦痛さが想像できる。

それだけではなく、「私は頭が痛い」では、bị　が　ない場合は「ずっと継続して痛い」、bị　がつくと「これまで痛くなかったが、今は痛い」という意味合いがでることも書かれている。

このように、bị　にはその出来事が突然起こったことを表す効果もある。

（103） Về sau nhà tôi ｛a.*được/ b.bị/ c.φ｝ bệnh nặng mà tôi thì vẫn phải đi làn, không ai trông nom ở nhà.
b.c.やがて、妻は、病気が重くなったが、僕は、相変わらず、仕事に行かなければならず、誰も、家にいて、面倒を見てくれるものがいなかった。

（104） Cửa nhà ｛a.được/ b. bị/ c. φ｝ mở.
a.家のドアが開いた／開いてよかった。
b.家のドアが開いてしまった。
c.家のドアが開いている。

（１０３c）は「ずっと重い病気」の状態であることを表しているが、（１０３b）は「病気が今までは重くなかったが、今重くなった」という意味になる。（１０４c）は「開いている状態」を言うが、（１０４b）は「今開いた」ということが想像される。（１０５）の　được　と　bị　との比較では、「突然開いた」というのが、bị　固有の意味で　được　にはないことがわかる。

（105） Đột nhiên cửa nhà ｛a.*được/ b. bị/ c. φ｝ mở.
b.c.突然家のドアが開いた。

bị　の例すべてが　bị　以下に表される内容の程度のひどさを強調しているように感じられるが、特に次の例からはそのことがはっきりとわかる。

（106） Áo quần tôi ｛a.*được/ b.bị/ c.φ｝ ướt hết.　
b.c.私の服はすっかり濡れてしまった

（107） Mẹ tôi ｛a.*được/ b.bị/ c.φ｝ ốm.
b.c.私の母は病気です

（108） Mẹ tôi không ｛a.*được/ b.bị/ c.?φ｝ ốm đau gì cả.
b.c.私の母は全く病気ではありません。

（１０６）は「・・・し尽くす」という意味が付加されているために、bị をつけずに表すこともできるが、bị を好んで使っている。（１０７）と（１０８）との比較では、否定を強調した（１０８）では、bị をつけないと不自然に感じられている。

また、bị が強調を表すことを利用して、表現効果として使われることがある。

（109） - ! , , ｛a.*được/ b.bị/ c.?φ｝ ...
b.大変だ！鎖骨は折れ、肋骨は割れ、しかもヒ骨にはひびが入っている・・・
c.大変だ！鎖骨は折れ、肋骨は割れ、ヒ骨はひびが入っている・・・

（110） bị , bị , bị ...

（１０９）は（１１０）のように全部に bị を入れることもできるが、ここでは最後だけに bị をつけて、盛り上げていき、「…」にもっと悪いことがあるのではないかという聞き手の想像をかきたてる効果がある。

được にも同じ使われ方があったが、bị がその行為を主語に及ばせた相手がいることを示唆することがある。

（111） Xe đạp ｛a.*được/ b.bị/ c.φ｝ hỏng rồi.
b.自転車が壊れてしまった。／壊された。
c.自転車が壊れた。

（１１１）について、川口（1991：84）には「自転車がこわれた」では bị がないと「自然にこわれた」、bị がつくと「誰かにこわされた」というような意味の違いが出てくると書かれている。実際には、（１６３b）が「自転車がこわれてしまった」という残念さの表れという解釈と「誰かにこわされた」という解釈の２つができる。

３．１．３．まとめ

　以上より được と bị の表す意味には次のようなものがあった。

表 2

được	bị
「恩恵性」 肯定的評価 嬉しさ・喜び・好ましい 主語の意思性の欠如　―　使役者 主語の意図性の欠如　―　偶然性の創出 文意の強調 獲得する意　―　動作性の創出	「被害性」 否定的評価 迷惑さ・残念さ・好ましくない 主語の意図性の欠如　―　突然・不意　 ―　動作性の創出 文意の強調・程度のひどさ 使役者・行為者の存在

　được/bị�V でも、được/bị�U と同様にđược/bị 以下の語が「恩恵」あるいは「被害」と結びつきやすいものなら、必然的に được/bị は決定するのだが、được/bị�V では được/bịがどのような意味を表出しうるかを把握した上で使い分けることが重要だと考えられる。

４．おわりに

以上、được/bị文を３つの用法に分け、それぞれđược/bịの決定に何が影響しているかを見てきた。được/bị�Uとđược/bị�V の連続性について、受影性や使役の関係での分析が興味深かったのだが、本稿では論じるまでに至らなかったのが非常に心残りである。

分析が不十分なところも多く悔しい思いでいっぱいだが、ベトナム語を１年を通して勉強するのは、私にとって非常に楽しいものだった。１年前までは全然読みも書きも出来なかったベトナム語が、今では文章を読んで、ある程度は理解できるようになった。それに、この１年間、論文を書くにあたって、たくさんの人に知り合え、助けてもらったことが何より大きい。とても充実した１年だった。

最後に、この論文を書き進めるにあたって、ご教示いただいた先生方、インフォーマントの皆様、北陸ベトナム友好協会の皆様に心からお礼申し上げたい。

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[続ベ短] ：竹内与乃助.1987.『続ベトナム短篇小説選』　大学書林

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[1] ‘動詞+ mất：’は、どんな動詞にも使えるわけではない。特に「恩恵性」の高い動詞とは共起しない。